「なぜ衛星で位置がわかるのか」「なぜRTKだとcm級になるのか」を、測量・実務の視点で図解します。衛星測位システムの種類、周波数帯、測位方式ごとの精度、電離層やマルチパスといった誤差要因、測地系と高さの扱いまで。ドロガーを使いこなす土台になる知識をまとめました。
GNSS(Global Navigation Satellite System=全球測位衛星システム)は、人工衛星を使って地球上の位置を求める仕組みの総称です。よく耳にする GPS は、そのうちアメリカが運用する1系統の名前にすぎません。
衛星からは「いつ・どの衛星が電波を出したか」の情報が送られてきます。受信機は電波が届くまでの時間から、その衛星までの距離を計算します。そして複数の衛星までの距離が分かれば、「その距離を満たす1点」として自分の位置が決まります。
位置は緯度・経度・高さの3つを求めるため、原理的には3機で足ります。しかし、受信機の時計は衛星ほど正確ではなく時計のズレも未知数になるため、これを含めて合計4つの未知数を解く必要があります。だから最低4機、実務では信頼性のため5機以上・上空が開けた配置が望まれます。
「距離の測り方」には大きく2通りあり、これが精度の差を生みます。
| 方式 | 測るもの | 精度の目安 | 使われ方 |
|---|---|---|---|
| コード測位 | 電波にのった符号(コード)で伝搬時間を測る | 数m級 | カーナビ・スマホ・単独測位 |
| 搬送波位相測位 | 電波そのものの波(波長 約19cm)の位相を数える | 数mm〜cm級 | RTK・スタティックなど測量 |
搬送波位相は波1つが約19cmと細かいため、波の位相を精密に読めば非常に高精度になります。ただし「波を何個ぶん数えたか(整数値バイアス=アンビギュイティ)」という未知数が残るため、これを確定(FIX)させる計算が要ります。RTKやスタティックは、この確定処理を行ってcm級を実現しています。
現在、世界には複数の衛星測位システムが運用され、対応受信機はこれらをまとめて利用します。地球のまわりを回る測位衛星は、4つの全世界システムだけで合計およそ130機にのぼります(2026年時点の目安)。ドロガー(u-blox F9P)も複数系統に対応しています。
測位衛星は、地球を広く覆うMEO(中軌道/高度約2万km)を回るものが主力です。加えて、特定地域を厚くカバーするために準天頂軌道(QZO)や静止軌道(GEO)・傾斜対地同期軌道(IGSO)の衛星を組み合わせるシステム(みちびき・BeiDou・NavIC)もあります。多くのシステムが同時に見えるほど、初期化の短縮・測位率の向上・精度の安定につながります。
| システム | 運用国・地域 | 衛星数(目安) | 軌道 | 主な信号 |
|---|---|---|---|---|
| GPS | アメリカ | 約31機 | MEO(約20,200km) | L1 / L2 / L5 |
| GLONASS | ロシア | 約24機 | MEO(約19,100km) | L1 / L2 / L3 |
| Galileo | EU(欧州) | 約24機(30機構成) | MEO(約23,200km) | E1 / E5a・E5b / E6 |
| BeiDou(北斗) | 中国 | 約35機 | MEO+IGSO+GEO | B1 / B2 / B3 |
| QZSS「みちびき」 | 日本 | 4→7機へ整備中 | 準天頂(QZO)+GEO | L1 / L2 / L5 / L6 |
| NavIC | インド | 約7機 | GEO+IGSO | L5 / S帯 |
みちびきは日本のほぼ真上(天頂付近)を長く通る軌道の衛星を含み、ビルや山で空が狭い場所でも高い衛星を確保しやすいのが利点です。GPSと同じ信号を出して補完するほか、精度を高める補強信号(CLAS/MADOCAなど)も提供します。国は7機体制を目指して整備を進めており(順次打上げ中)、これが確立すると日本上空に常時4機以上となり、みちびきだけでも持続的な測位が可能になるとされています。
測量用の高精度GNSS受信機は、いまや主要4〜6系統・多周波に対応するのが標準です。対応系統・周波数が多いほど、都市部や山間でもFIXしやすく安定します。代表的なメーカーと傾向は次のとおりです。
| メーカー/例 | タイプ | 対応衛星系(傾向) | 周波数 |
|---|---|---|---|
| ビズステーション ドロガー(u-blox F9P) | スマホ接続・普及機 | GPS・QZSS・GLONASS・Galileo・BeiDou | 2周波(L1/L2帯) |
| Trimble(ニコン・トリンブル) | 測量用ハイエンド | 全主要系統に対応 | 多周波 |
| Leica(ライカ) | 測量用ハイエンド | 全主要系統に対応 | 多周波 |
| Topcon/Sokkia | 測量用ハイエンド | 全主要系統に対応 | 多周波 |
| Septentrio | 高精度モジュール/受信機 | 全主要系統に対応 | 多周波 |
| u-blox(F9P等・OEM) | 組込みモジュール | GPS・QZSS・GLONASS・Galileo・BeiDou | 2周波 |
衛星は複数の周波数(L1・L2・L5など)で信号を出しています。受信機がいくつの周波数を受けられるかで、精度と安定性が変わります。
同じGNSSでも、補正のかけ方で精度がまったく変わります。おおまかな精度の階層は次のとおりです。
GNSSの誤差は、大気・環境・衛星・受信機のどこで生じるかで整理できます。RTKやスタティックは、これらの多くを基準局との差分で打ち消します。
| 誤差要因 | 内容 | 主な対策 |
|---|---|---|
| 電離層遅延 | 上空の電離層で電波が屈折・遅延。距離が離れるほど影響大。 | 2周波で除去/基準局を近くに |
| 対流圏遅延 | 大気(気温・気圧・水蒸気)で電波が遅延。 | 大気モデルで補正/基準局との差分 |
| マルチパス | 建物・地面・水面などの反射波を拾う。都市部・低仰角で大。 | 開けた場所で観測/低仰角衛星を除外/グランドプレーン |
| 衛星の軌道・時計 | 放送情報のわずかな誤差。 | 精密暦(後処理)/基準局との差分 |
| 受信機雑音・アンテナ | 機器内部の雑音、アンテナ位相中心のばらつき。 | 良質なアンテナ/PCV補正/アンテナ高を正確に |
アンテナが電波を受ける「電気的な中心」は、目に見える物理的な中心とは少しズレ、方向によっても変わります。このオフセット(PCO)と方向依存の変動(PCV)を補正し、アンテナ高を正しく測ることが、高さ精度に直結します。
観測が「よい状態か」を判断する代表的な指標です。
GNSSが出す座標は「どの基準(測地系)で表した座標か」を意識しないと、地図や成果と食い違います。
日本は地殻変動で少しずつ動いています。基準を定めた時点の座標が元期、観測時点の座標が今期。両者はセミ・ダイナミック補正で結びます。VRSは元期、善意の基準局は今期になりがちで、混在に注意が必要です。