相続土地国庫帰属専門家コラム

相続土地国庫帰属制度とは? ― 「売る」から「払って引き取ってもらう」時代へ

「相続したけれど、使い道のない土地」。売ろうにも売れない土地に、お金を払ってでも手放すという新しい選択肢が生まれました。始まったばかりの制度を、現状の運用状況とあわせて詳しく整理します。

📅 公開日 2026.08.05/最終更新日 2026.08.09

遠方の原野や、売るに売れない土地。相続したものの持て余す不動産に、新しい選択肢が加わりました。2023年4月に始まった「相続土地国庫帰属制度」です。ただし、始まってからまだ日が浅く、事例の蓄積もこれからの制度です。現時点で分かっていることを、実務の視点から整理します。

この制度は ― 相続や遺贈で得た土地を、一定の要件を満たし、負担金を納めることで国に引き取ってもらえる仕組みです。「売って手放す」のではなく「お金を払って手放す」という、これまでとは逆の発想が必要になる場面が出てきています。

まだ始まったばかりの制度です

相続土地国庫帰属制度は2023年4月27日にスタートした、比較的新しい制度です。法務省が公表している運用状況によると、2026年2月28日時点の累計で次のような状況です。

5,140件累計申請件数
2,542件累計帰属件数(承認)
半年〜1年申請から結果までの目安

帰属した土地の内訳は、宅地902件・農用地776件・森林156件・その他601件となっています(法務省公表データより)。件数自体は少しずつ増えていますが、まだ「よくある手続き」というほど事例が積み上がっているわけではなく、土地ごとの個別事情によって結果や審査期間の見通しが立てにくいのが実情です。制度の運用や実務上の取り扱いも、今後変わっていく可能性があります。

「売る」から「払って引き取ってもらう」時代へ

これまで「不要な不動産」といえば、基本的には「売る」対象でした。買い手がつかない土地は、固定資産税を払い続けながら持ち続けるしかありませんでした。ところが、国庫帰属制度の登場によって、審査手数料と負担金という「費用を払うことで手放す」という選択肢が公的な制度として整いました。「価値がない土地=処分できない土地」ではなくなりつつある、という意味で、土地の手放し方の考え方そのものが変わってきています。

ご注意ください ― この流れに合わせて、手数料を受け取って土地を引き受ける民間の「引き取り業者」も出てきています。こうした業者は宅地建物取引業法の規制対象外であることが多く、法的な消費者保護が十分に及ばないケースがあります。高額な調査費用を請求されたり、引き取り料のつもりが実は「別の不要な土地を買わされていた」という事例も報告されています。専門家の紹介があっても内容を鵜呑みにせず、契約前に事業者の実態・契約内容を必ずご確認ください。

帰属できる条件(却下事由・不承認事由)

すべての土地が対象になるわけではありません。国庫帰属法では、審査以前に申請自体が受け付けられない「却下事由」と、審査の結果として認められない「不承認事由」が、それぞれ定められています。

却下事由(申請の入り口で対象外になるもの)

  • 建物が建っている土地
  • 担保権や使用収益権(抵当権・地上権など)が設定されている土地
  • 通路など、他人による使用が予定されている土地(現に通路として使われている土地、墓地内の土地、境内地、水道用地・用悪水路・ため池の土地など)
  • 特定有害物質により土壌汚染されている土地
  • 境界が明らかでない土地、所有権の存否・帰属・範囲について争いがある土地

不承認事由(審査の結果、認められないもの)

  • 一定の勾配・高さがある崖(勾配30度以上・高さ5m以上)で、管理に過分な費用や労力がかかるもの
  • 土地の管理・処分を阻害する工作物・車両・樹木などがある土地
  • 除去しなければ管理・処分ができない地下埋設物がある土地
  • 隣接地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
  • 土砂の崩壊等により、周囲に被害を及ぼすおそれがある土地 など

実務でとくに壁になりやすいのが、境界の明示です。切絵図(古い公図)しか残っていない地域や、山間部で隣地との境界確認が長年行われていない土地では、そもそも境界を明らかにする作業自体に時間と費用がかかります。加えて、急傾斜地や造成に多額の費用がかかる土地は不承認事由に該当しやすく、「相続したものの、境界も分からず造成もされていない土地」ほど、実際には制度を使うためのハードルが高くなる傾向があります。詳しい要件は法務省のホームページでも公開されていますので、あわせてご確認ください。

手続きの流れ

①事前相談 法務局の窓口で 対象になりそうか相談 ②承認申請 審査手数料 14,000円/筆 ③書面審査 ・実地調査 却下/不承認事由の確認 ④承認の通知 却下・不承認の場合 はここで終了 ⑤負担金の 納付 原則20万円/筆 ⑥国庫に帰属
事前相談 → 承認申請(審査手数料)→ 書面審査・実地調査 → 承認通知 → 負担金納付 → 国庫帰属

申請から結果が出るまでは、法務局の状況にもよりますが半年〜1年ほどかかることが多いとされています。急いで手放したい場合には、売却や他の方法とあわせて検討することをおすすめします。

費用(負担金・手数料)を整理

項目目安備考
審査手数料14,000円/筆申請時に収入印紙で納付。却下・不承認となっても返還されません
負担金原則20万円/筆10年分の管理費相当額が目安。宅地で市街化区域内・用途地域内にある場合などは、面積に応じて加算されることがあります
手続き費用(測量・書類収集等)ケースによる境界確認・確定測量が必要な場合や、戸籍・登記関係書類の収集状況により、費用は土地ごとに大きく異なります

「負担金」という名称のとおり、国庫帰属は無償で引き取ってもらえる制度ではありません。とくに境界確定測量が必要なケースでは、負担金以上に測量・調査の費用がかさむこともあるため、事前に総額の見通しを立てておくことが大切です。

当社への相談状況について

当社にも「相続した土地を国庫帰属できないか」というご相談は、この1〜2年で目に見えて増えています。とくに、遠方の山林・原野・利用予定のない農地などをお持ちの方からのご興味が高い印象です。一方で、実際に要件確認から承認・帰属まで完了した事例はまだ多くありません。制度自体が新しく、境界確認や書類準備に時間がかかるケースも多いため、「まずは対象になりそうか」の見極めから始め、状況を確認しながら並行して売却・活用の可能性も探る、という進め方をご提案することが多くなっています。

相続放棄との違い ― 相続放棄は全財産が対象で、預貯金など他の財産も失います。国庫帰属は「その土地だけ」を対象にできます(相続放棄のコラムもご覧ください)。
当社の強み ― 対象になりそうかの見極め、境界の確定測量、必要書類の準備を社内対応+法務局とのやりとりでサポートします。「売る・活かす」と「国に返す」、どちらが有利かも状況を見ながら一緒に検討します。民間の引き取り業者を検討される場合も、契約前にぜひ一度ご相談ください。

よくある質問

制度はもう定着していますか?
2023年4月に始まったばかりの制度です。法務省の公表では2026年2月末時点で申請5,140件・帰属2,542件で、まだ事例の蓄積が進んでいる段階です。土地の状況により結果や審査期間の見通しが立てにくい面があります。
境界がはっきりしない土地でも申請できますか?
境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲に争いがある土地は却下事由に当たり、そのままでは申請が受け付けられません。実務上、境界確認は制度利用の大きなハードルのひとつです。
お金を払ってでも土地を引き取ってもらう業者がいると聞きました。安全ですか?
近年、手数料を受け取って不要な土地を引き受ける民間業者が出てきていますが、宅地建物取引業法の規制対象外のケースが多く、法的な消費者保護が及びにくいのが実情です。高額な調査費用の請求や、別の不要な土地の購入に誘導される例も報告されています。契約前に事業者の実態や契約内容を十分に確認することをおすすめします。
売却のまとめ
▶ 「相続した不動産を売るには?」総合ガイドで全体像を見る

この記事は「不動産の売却」ガイドの一部です。売却の流れ・任意売却・国庫帰属・農地転用・共有解消まで、売却のテーマをまとめています。

使い道のない土地、手放し方を一緒に考えます

国庫帰属が使えるか、売却・活用の方が良いか。境界の確認から書類準備までサポートします。

※本記事は一般的な情報の提供を目的としたものです。税・法律・制度の詳細や個別の判断については、自治体・専門家にご確認ください。

Next step

この記事を読んで、実家を売るか迷い始めた方へ。

「売る・残す・貸す、どれがいいのか」——決めていない段階でも大丈夫です。ご相談は無料です。

電話 LINE フォーム